[鼎談]子どもたちに託す、十年後の高山へのメッセージ。今、心に映る高山をいつまでも。/作家・クレヨンハウス主宰落合恵子/写真家稲越功一/高山市長土野守

子どもの頃から"結縁" の中にいる。だから伝えられるものがある。

 

市長 僕らの子どもの頃の楽しみっていえば、祭りとお正月なんですよね。祭りだとお小遣いがもらえて、お正月はお年玉がもらえる。

稲越 そして新しい洋服が着られる(笑)。

市長 ごちそうが食べられるということでも、祭りを非常に心待ちしていましたね。もちろん、祭りにも参加をして、一面では主役になったりして。そんな気持ちや体験をどんどん次の世代へ受け継いでいくことが、ふるさとに対する思いに結び付き、伝統につながっていく。文化の伝承の原点が祭りの中にはあると思います。

落合 例えば算数ができなくても、お祭りのときには主役になれる。学校という居場所だけじゃなくて、お祭りというもう一つの舞台がある。あなたの居場所がほかにもたくさんあるのよ、ということが子どもには(実は大人にも)大事でしょう。私は子ども時代が栃木でしたので、秋の風が吹いてきて、キンモクセイの香りがするなと思ったらお囃子を思い出すんです。どこかで記憶がエンドレステープのようにつながっていて。それと同じことを、きっと高山の子どもたちはずっと持ち続けることができるのだろうなと思いますよね。

市長 高山では四月と十月に高山祭があり、地域に行けば春には豊饒を祈願した祭りが桜前線みたいに移動しながら、一日おきのように違う地域で行われます。地域では祭りに参加するために子どもたちは獅子舞を練習し、お囃子の横笛を吹く。こうした練習に参加し、祭りのために技術を学ぶことは子どもたちにとっては当たり前のことです。子どもたちの練習を見る大人たちも、かつては自分がそうやって育ってきましたから、子どもたちを親身になって指導する。高山では祭礼の伝承はすごくいいカタチでつながっています。祭りが近づくと、練習をする笛の音とか、闘鶏楽の鉦を叩く音とかが、夜のしじまの町なかに響き、高山の人たちは無意識のうちに祭りのお囃子をBGMにしながら暮らしています。

   

稲越 あと一つ重要なのは、祭りのときって家族の一員、ひいては町内、もっといえば一つの市、エリアの一員となることなのです。家族で食事ができる、町内会で絆の一つが生きてくる。こうした絆を実感することが、実は祭りの大切なことじゃないかと僕は思うのです。

落合 そうですね。地縁血縁という言葉がありますが、高山の場合は血の縁だけじゃなくて、結ぶほうの縁『結縁』ができるということが重要だと思うんですよ。稲越さんがおっしゃられた家族、それが町内に、高山市につながって、そこに外から旅行者 が入ってくるという結び縁が各所でできるおもしろさ。豊かなまちとは、そういう結縁をたくさん持っているところだと思います。

市長 高山では家々で裃を持っているのですが、祭りの際に役がまわってくると"けいご"っていうのですが裃を着て、一文字笠をかぶり、祭礼に奉仕することがもう当たり前になっているのですよ。こうした支え合う精神もまた、高山の文化だと思っています。

稲越 祭りで子どもたちが祭礼に出て、町を練り歩くと観光客がカメラを持って集まってくる。すると、子どもたちは得意げにレンズの前に立つ。知らず知らずのうちに地域の伝統を背負い、注目を浴び、それを誇らしく思うような経験を味わうことができるのは祭りならではのことです。文化を伝えることはもちろんですが、高山で子どもたちが生き生きと好奇心を持って育っていくためには、いかに発表の場をつくってあげるかが大切だと思います。祭りはとてもいい発表の場ですが、例えば六本木ヒルズで開催した写真展も同じだと思います。大人にとっても好奇心を抱き続けることは大切で、二十年間、高山で育ったことが今、僕の力になっていますね。いろんなものを見たり、話をしたり、文章を書いたりした時に、自分の中のピュアな部分が引き出されてくるのです。僕は僕の立場から、今後も高山の子どもたちに関わり続けたいと思っています。

いい顔をした人たちと、いい風土。それこそが、観光資源。
伝統の精神と豊かな風土を受け継ぐ人情の町へ。 >
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