[鼎談]子どもたちに託す、十年後の高山へのメッセージ。今、心に映る高山をいつまでも。/作家・クレヨンハウス主宰落合恵子/写真家稲越功一/高山市長土野守

いい顔をした人たちと、いい風土。それこそが、観光資源。

 

稲越 高山は、場所の時間軸がとてもいいところにある。東京・名古屋間が二時間で、さらに名古屋から二時間以上かかってしまうのです。現代人にとっては不便だと思うんですが、その不便さが、僕はある意味で必要だと思うのです。時間もある意味必要。無駄もある意味必要。逆に言って、これが名古屋から高山まで一時間で行けてしまったときに、僕はそれは滅びの時間の始まりだって、勝手に思ってるんですよね(笑)。高山としては、経済的には大変なのかもしれませんが、我慢というのは必要だと思います。

落合 より速くすることによって大事なものを全部そぎ落としてしまうことって、よくありますね。ですから「豊かな我慢」が必要なこともあると思います。

市長 稲越さんがおっしゃるように、時間・距離が短くなることによって、これまで守ってきたものが壊れてしまうリスクは高まるでしょうが、都会からの時間、距離があることで、逆にいいものを高山は残すことができたのです。それが今の高山の観光を支えているのですから時間軸は大切ですね。適度に離れているからこそ保たれる、ほどよい時間を大切にしながら、まちづくりの目標に向かっていきたいと思っています。

落合 稲越さんの写真にありましたが、双六川っていうんですか。何度か高山に行っていますが、知らなかったんですよ、この風景、この色を!古い町並みなど素晴らしい観光資源をすでにたくさん持ってみえるんですが、再発見の場所がこんなにたくさんあるとするなら、高山が好きで今まで何度も行かれた方は、さらにもっと行きたくなる。でも、観光客ってすごくわがままじゃないですか?(笑)。
豊かな自然がほしかったり、旧(ふる)いものがほしかったりしている一方で便利であってほしいと言う。もちろんこの二つが満足できればいいわけですが、私は旅行者の感覚もこれから変わってくるような気がするんですよね。単に便利なアクセスだけを求めていることが、ホントは違ったんじゃないかと。

   

私は高山へ行って何がうれしいといったら、コーヒーが美味しい! あるいはキャベツ畑で深呼吸をすることの素晴らしさ。風がわたっていく音が見える瞬間、流れていく水の音を聞いているうちにまた違った何かが見えてくるんじゃないかという期待。これまでとは違った意味での観光というのがあると思うのです。それは観光という言葉じゃないのかもしれませんけれども。それと、子どもたちが遊ぶ同じ空間にお年寄りがイキイキとおられる。ちゃんと「私です」っていらっしゃることの素晴らしさ。こういったことは観光か、市民の暮らしかという二者択一ではなく、市民の暮らしをしっかりすることでむしろ観光としてもより良くなり、旅人にとっても豊かな空間に成り得ると実感しますよね。

市長 おっしゃる通りだと思いますね。やっぱりそこに住んでいる人たちにとっていい町でなければ、観光に来ていただいてもいい町ではないのです。「ここに住んでみたい」と感じていただけるようなまちづくりはもちろんのこと、おもてなしも含め、色々な対応をしていかなくてはならないと感じています。高山は景色もそうですが、食文化も充実していまして地域ごとに魅力のある料理が多いですね。そのような「食」を旅に盛り込むことによって旅の魅力はもっと高まると思います。
落合 高山の魅力といえば、色もそうですね。私は園芸が好きなんですが、植物の色がとても鮮やかですね。赤がホントの赤で、紫がホントの紫で、黄色がホントの黄色で。この植物の色の違いはなんなんだろう!って思いました。風土がつくりだす色なんですね。

稲越 今回、撮影のために初めて九地域を回り、新しくなった高山を見つめ直したのですが、やはり風土が人をつくると実感しましたね。撮影でシルクロードを二年間くらい回ったのですが、大げさではなく、世界広しと言えど、高山ほどの魅力を持つ風土は少ないと思いましたよ。合併して東京都と同じくらいの広さになったのに、人口は僅か十万人弱ですから、飛騨の人なら今の素敵な風土をきっと維持することができると思います。撮影でお会いした人たちはどの地域のみなさんも穏やかな人ばかりでしたね。住んでいる人たちがいい顔をしているから、その風土もいい顔をしていると言えるのではないでしょうか。まさに高山は風土と人の共存共栄の場なのですね。

子どもたちの目線で気づかされたチャーミングな高山。
子どもの頃から"結縁" の中にいる。だから伝えられるものがある。 >
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