[鼎談]子どもたちに託す、十年後の高山へのメッセージ。今、心に映る高山をいつまでも。/作家・クレヨンハウス主宰落合恵子/写真家稲越功一/高山市長土野守

伝統の精神と豊かな風土を受け継ぐ人情の町へ。

 

落合 私には、今まで行ったことがある高山とは別に、もう一つ行きたかった高山があります。私の母も高山が非常に好きで、春も素敵だよ、夏も素敵だよっていろんな思い出話を同世代のお友達としているのを聞いていました。それが、「真冬の凛とした空気の高山に、私も立ってみたい。真冬には、貴方と行きたい。娘と行きたい。そこでゆっくりしよう」って。そのうちそのうちと言っているうちに六年前に倒れてしまって、彼女の夢は果たせないまま。何度も何度も言っていたので、とても悔やまれるんですけど。だから高山って地名を聞いただけでも、胸がきゅんとなる……。高山は大好きな場所であると同時に、私にとって、せつない思いのある所でもあるんですね。

市長 確かに、雪がしんしんと降る時季もいいですね。最近は聞こえなくなったんですが、雪道を歩くと"キュッキュッ"と音がしたんですよ。それと障子に雪が当たって、さらさらさらっていう音がする。まさに川端康成の小説の世界ですね。今はガラスになったり、舗装になったりしていますから、残念ですが風情のある音が聞けなくなってしまいましたね。

   

稲越 そんな風土があったからこそだと思いますが、飛騨の人って実際には情緒とか情感とか、鋭いものをたくさんもってらっしゃる。でも遠慮深さが美徳みたいなところがあってどうしても引っ込み思案になってしまう。もちろんそうした美徳も大切なのですが、これからの世代の人たち は、もうちょっと主張していってもいいと思いますね。今回の撮影で感じたのですが、市の中心部だけでなく、周辺も含めた高山のスケール感を、いい形で全国の方にアピールしていってほしいと思います。

落合 よく旅行雑誌などでは高山の形容詞に"小京都"って使いますが、あれは違うと思う。京都は京都であって、高山は高山。これほど素敵なものをたくさんお持ちなのですから、もっと胸を張っていただきたいですね。高山ファンとしての希望です。

市長 本日は高山の魅力について、色々な視点でお話し頂きありがとうございました。皆さんのご期待に応えるよう、各地域の魅力ある景観をはじめ伝統文化など、高山の良さを大切に残したいと考えています。そして、何よりも代々受け継いできた精神や人情、そして情緒を大事にし、それを子どもたちに伝えていくことが私たち大人の使命だと実感しました。ぜひ、十年後の高山を楽しみにして頂きながら、これからの高山をあたたかく見守ってください。

子どもの頃から"結縁" の中にいる。だから伝えられるものがある。 鼎談-目次  >