高山の人はみんなきれい好きである。それが証拠に、どこのうちでも、朝起きるといちばんに家の前の掃除をする。そして水を打ってから家の用事にかかる。朝ご飯をいただくのも、それからで、まず清めることから一日は始まる。
その掃除の仕方には近所同士で暗黙のうちに、きまりのようなものができている。それは歴史が育てた暮らしの知恵ともいえる。掃くにしても、打ち水にしても、冬の雪かきにしても、よそのことまでは構わないのである。それが長い歳月、仲良く暮らしていくコツなのだ。
何かにつけて侵さず侵されずというのが根本的な姿勢で、打ち水から雪かきまで徹底しているから、暮らしよい。お互いに自分の家の前と両隣に少しだけ境界線を超え掃除をする。こうして町全体がきれいになっていくという仕組みである。
うっかり朝寝をして、お隣に掃除をしてもらったら、今度はこっちが早起きをして、そのお返しをしなければならない。そんな借り貸しのある暮らしは長続きしないので、うちはうち、よそはよそと割り切るのが当たり前になっている。
水を打ってほこりを抑え、清めると、こちらの気分までが生々として、みんな達者でいられるのも、家が繁盛しているのも、この掃除のおかげだとうれしくなる。
つつましく、しずかで、ひとに媚こ びない気構え、この町にはそんなものが脈々と流れている。
写真右○上三之町/側溝の清流
(right) Roadside Stream, Kamisanno-machi
写真左○上三之町/店先ののれん
(left) Hanging Curtain of Storefront, Kamisanno-machi
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