高山市市制施行70周年記念誌 たまゆら|目次

木の聲(こえ)を聞く

 聞くところによれば円空は生涯をかけ十二万体の仏を造ることを念願したというが、大胆な造形で見る人を魅了する円空像は、三百年経った現在も日本の各地に点在し、岐阜県には一、七〇〇体近くが残っている。その多くは関市と高山市に集中しているが、コンクリートの所蔵庫におさまった名作を案内書付きで眺めるよりも、田畑の横のお堂にひっそりと祀られている、名もない円空像に予備知識なしで対峙(たいじ)するのは楽しい。
 撮影のためにお堂から取り出してもらった十一面観音、不動明王、毘沙門天の三尊は鉈(なた)で削(そ)ぎ落とした鋭利な角が丸くなっており、風雨にさらされた自然の立木のようにも見え、ほんの一筋刻み込まれただけの眉(まゆ)や目を見ていると気持ちまで穏やかになる。
 このお堂を集落の人たちは『子安観音』と呼び、大切に守っているのだが、名の由来は三尊の中心に安置される十一面観音の突き出した腹を見て、安産、子安へと結びつけたようだ。
 実のところ十一面観音は水を管理する仏だといわれており、左手に堅く水瓶を握っているのは、その中の清い水が人間の心の濁りをたちまちに清くしてくれるといわれているからだが、何にでも変化する十一面観音だから、あるときは荒神にもなり、ある時は慈悲に満ちたやさしい女性にもなったりもする。

朝日町大廣/かきつばた Irises, Asahi-cho Ohiro写真右○朝日町大廣/子安観音堂の十一面観音(円空作)
(right) Buddha Sculpture
by Enku in Koyasu Kannondo Shrine, Asahi-cho Ohiro
写真左○朝日町大廣/かきつばた
(left) Irises, Asahi-cho Ohiro

 

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朝日町大廣/子安観音堂の十一面観音(円空作) Buddha Sculpture by Enku in Koyasu Kannondo Shrine, Asahi-cho Ohiro

朝日町大廣/子安観音堂 Koyasu Kannondo Shrine, Asahi-cho Ohiro 朝日町胡桃島/秋神川 Akigamigawa River, Asahi-cho Kurumijima

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